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オートバイの旅(26)Mexico-1976/12/09 [日誌]

オートバイの旅(玉井洋造の旅1976) 日誌

(26)Mexico-1976/12/09

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1976/12/09   パサパサ
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 半島の中ほどまで南下すると、巨大なサボテンが岩の間から現れ始めた。高さは20メートルぐらい。南下するにしたがって、町はさらにひどくなって、買うパンは乾燥して、パサパサ。缶詰も錆びている。
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1976/12/10   トイレ
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 サンタ・ロザリアは人口1万の工業の町だ。食料(パンだけ)の購入とカフェーにも行きたかったので、ハイウェイから下りた。
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 木造の半分壊れた家並みとほこりが舞い上がる道路。ゴミが散らかった大通りの両側に、塗装の剥げた古い車が駐車している。その中をノロノロ進みながらメルカード(市場)とカフェーを探す。見つかったが異様な雰囲気なので、怖くなり入るのを中止した。
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 次の町ムレジも同じような町並みだが、すぐに道が分からなくなった。狭い道で一方通行だ。どんどん奥へ入ったら行き止まりだ。そこにタクシーの運転手がいたので聞いてみるが、まったく通じない。
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 どうにかこうにかメインストリートのようなところへ出て、手書きの小さな看板にレストランとあるのを見つけた。ドアが2つあるだけの小屋のようなところだ。6人ほど座れる丸テーブルがある。開け放たれたドアからバイクが見える位置のテーブルに座り、コーヒーを注文する。これだけはすぐに通じた。
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 娘がプラスチックのカップにスプーンをつけてもってきた。私はきれいなカップもあるんだなと喜んでカップをのぞくと透明だ。湯だけだ。あれまあと思ったら、テーブルの上にインスタントコーヒーの容器があるのを見て納得。自分の好きなだけ、インスタントコーヒーを入れて飲むという仕掛けだ。
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 トイレへ行きたいが通じない。トイレ、レストルーム、ラバトリー、ウォッシングルーム、WCなど知っている単語を並べてみたが駄目だった。しかし、根性で探し出した。裏庭のドアの代わりに布が垂れ下がっている小屋が便所だった。トイレットペーパーが備えられているのが不釣り合いだ。
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1976/12/11   耳鳴
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 ロレトの町の近くのカーブで、道路端にいた牛がハイウェイ目がけて突進してくる。茶色の牛は横目でちらっとこちらを見て、バイクのほんの1メートル先を通過していった。冷や汗をかいた。
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 ロレトの町から気候が変わったらしく、景色も変わった。今まではサボテンしかなかったが、山に緑が多くなり、樹木らしいものも見られるようになった。ギガンタの山脈を超え、インスルジェンツの村へ下っていくと畑もみられるようになった。大農園だ。こちらではランチョと言っている。
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 安全性を考えて、アメリカの交通規則のまま、昼間もヘッドライトをつけて走っていた。前からくる車がみんな「ランプがついているぞ」とヘッドライトを点滅させて合図してくる。私はそのたびに、ありがとうと手を上げなくてはならない。アメリカでは「ランプがついていないぞ」とライトの点滅で注意されていたのだ。
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 町に近づくと道路わきに花や十字架や石碑が並んでいる。交通事故に泣く家族が多いようだ。町から離れると行きかう車も減り、ただ、牧場の柵だけが延々と続く。
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 夕方、空地にバイクを入れ、エンジンを止めると、急に音のない世界が襲ってくる。こんな所には、小鳥さえいない。風もない。自分の呼吸する音だけがいやに大きく聞こえる。生き物である自分の存在を感じる。耳鳴りもしてきた。しばらくして耳の鼓膜が鈍い音に共鳴した。音としてではなく、耳鳴りのような感じだ。だんだん大きくなっていき、車が私の前を通過していく。その排気音は、騒音というより、音のない世界から救ってくれる音楽のようだった。

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1976/12/12   黄色いチョウ
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 この半島の州都ラパスへ向かう。牧場の柵のないところでは、道路に飛び出した牛がはねられたて死んでいる。坂の途中で見つけた牛の死体には、ハゲタカが群がり、私のバイクの出現で一斉に飛び立つ。目の前が真っ暗になるぐらいのすごさだ。そのうちの1羽がヘルメットにぶつかるところだった。
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 ラパスは人口6万人のバハ・カリフォルニア州の州都で、大きなスーパーマーケットもあり、浜の近くには美しい家々が並んでいた。
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 さらに南下して、キャンプを決めたエル・トゥリウンフォの近くまで来ると、大きな樹木はないが、落葉の灌木が出現し、黄色いチョウが目についた。そして、ディディディディと鳴くゴールデンフィッシャーという小鳥も現れた。
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1976/12/13   ゲンゴロウ
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 半島の南端サンルカスに到着。この近くには葉の小さな樹木もあった。港の前のレストランにはキョウチクトウも植えられていた。
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 夜、港の近くでキャンプする。水筒の中に水垢のようなものが浮かび、小さなゲンゴロウのような虫が泳いでいた。匂いはないし、うまい水だったので、ヨードチンキを3滴ほど落として飲んだ。ゲンゴロウはまだ泳いでいた。

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